JAZZ学第一講座

Dept. of Jazzology I
第三講 ブルースの発展とディキシーの台頭

 三回目の講義、講師はいつもの通り伴 平連(g)だ。えーと、前回は確かブルースが出てきた所で終わったんだったな。今日はちょっとまずこの会話を聞いてもらう。ルイジアナ州ニューオーリンズ郊外にお住まいのマーチン・キングさん(仮名、当時68歳、農業)と、その友人達の会話。1914年。

 

マルコム「キング爺さんよう、今日もアレやるんだろ。セッション。セントルイス・ブルースのコード、覚えてきたぜ。あのサビの部分がいいよな。ガーシュインのサマータイムにそっくりだけどな」

キング「これこれ。この頃は著作権とかいう概念がほとんどなかったんだからいいんじゃよ。お前はどうも発言が過激でいかん。この世は神様がちゃんと見ていて下さるから、争いは避けるべきじゃ。ところで、お前はドラムじゃろ。コード覚えてどうする」

マルコム「何いってんだよ。ドラムだってコードは知っておいたほうがいいんだよ。しかし毎度のことながら神とか辛気臭いことばっか言ってんなあ、キング爺さんは。そんなこと言ってるから白人の豚野郎にナメられるんだよ。まあいいや、それよりオルガンは完璧なんだろうな、爺さん」

キング「ワシはゴスペルの頃から教会でオルガンを弾いてきたんじゃ。若い者などに負けるわけないじゃろ。そうだ、それよりネルソンのベースは大丈夫だろうな。ていうかネルソンはどうした」

マルコム「そういえば、さっき山のほうに行ったけど…。あ、来た来た」

ネルソン「あー、びっくりしただよ」

キング「どうしたんじゃ」

ネルソン「おらは山に薪を拾いにいってただよ。ずーっと、ずーっと山の奥のほうに入っでいっただよ。そしだら急に目の前がばあーっと明るぐなっで、でーっげえオレンジ色の光が全身を覆っで…。おら、あーっただ不思議な経験をしだのは生まれで始めでだわ」

マルコム「…お前、ジャパンのテレビ局かなんかに影響されてないか? まあボスニアでは戦争始まったっていうからな、爆弾でも爆発したんだろ。まあそんなことは俺たちにはどうでもいい。練習はしてきたんだろうな」

ネルソン「いやいや、だがら練習どころでねがっだって。まあサビのほかは普通のブルースだっけや? 練習しねくだっででぎるって。あどホレ、入部希望者連れできだっけや。ホレ、グッドマンの坊ちゃん、うしろさかぐれでねっで、ホラ」

グッドマン「…はじめまして。グッドマンといいます。よろしく」

マルコム「て、てめえ! 白人じゃねえか! ネルソン、なんだってこんな豚野郎を連れてきやがった!」

キング「これこれ、落ち着かんかマルコム。しかしグッドマンとか言ったな、普通の白人はこんな黒人居住区には近づかんぞ。何をしにきた? 何を企んでおる?」

グッドマン「いやだなあ、企んでるなんて。ただ単純に音楽をやりに来たに決まってるじゃないですか。なんか最近、黒人の間でブルースとかいう奇妙な音楽が流行ってるらしいって話を聞いてね。どんなものか1回見てみよう、ということで、僕の家のもと使用人のネルソンに頼んで、わざわざこんな汚くて暗くて臭い所にきたってワケですよ。ホントは嫌なんですけどね、服汚れるし。でもまあ僕は音楽のためならどんなとこだって来ますよ」

マルコム「こ、このガキ、こ、殺、殺…、」

キング「こらっ。相手は子供ではないか。暴力はいかん、暴力は。ワシもムカつくけど。で、ところでグッドマン、おまえの楽器は何じゃ? そのケースはトランペットか?」

グッドマン「やだなあ、そんな下品な楽器なんて僕がやるわけナイじゃないですか。ハイソな僕はコレ。クラリネットですよ」

マルコム「…こらガキ。あんまりナメた真似サラすと明日メキシコ湾に沈むぞコラ。クラリネットでどーやってブルースやるっちゅーんじゃ。そんな木管楽器の音なんざ、シンバル一発で消されるっちゅーんじゃ。ナメるのもたいがいにせいワレ」

グッドマン「まあまあ、おちついて、クールにいきましょうよ、マルコムさん。ドラムの人は、これを使ってもらいます」

マルコム「…なんじゃコレ。船の底の鉄板についた貝とかサビとか落とすワイヤーブラシじゃねえか。これが何だ?」

グッドマン「スティックのかわりに、それでドラムをたたいて下さい。あ、そしてオルガンの人はこれ」

キング「…あ、メキシカンのバンドでよく使ってる…バンジョーか?」

グッドマン「御名答。キングさん、ギターもやるってネルソンから聞きましたんでね。弾き方はギターと同じですが、基本的にはコードだけ弾いてて下さい。メロディーは僕がやりますんで」

ネルソン「オラは何やればいいだ?」

グッドマン「ネルソンはそのままふつうにひいてて。では、セントルイス・ブルースね、ハイ、ワーン、ツー」

マルコムキングネルソン「(なんでこいつが仕切ってるんだ?)」

 

 

 この話は全くの俺のフィクションだが、ブルースからディキシーに移行しつつある時ってのは、まあこんなもんじゃないのかな、と考えられる。あと本来のディキシーはクラリネット、ペット、トロンボーンの3管編成なことが多い。あと、もちろんこれでブルースは滅んだわけでなく、プルースはブルースとして独自にジャンルとして残っていく。ちなみに、ディキシーランドDixieland=New Orleansのこと。南北戦争後にこのへんで発行された10ドル紙幣にdix(フランス語で10)と書いてあったから。らしい。

 

おすすめCD

ブルース:

ELLA FITZGERALD "THESE ARE THE BLUES"

ディキシーランド(というよりスゥイング)ジャズ:

ベニー・グッドマン「カーネギー・ホール・ジャズ・コンサート」

ディキシーランドのようなモダンジャズ:

ST LOUIS BLUES/SIDNEY BECHET&BLUE NOTE JAZZMEN Vol.1

(本物のディキシーの録音は時代的にあまりない。日本でもアマチュアバンドでよくディキシーをやっていたりするので、それを買って聞いたらディキシーのだいたいの雰囲気はわかる)

つづく

質問は音楽相談室で承ります。

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Jazz学第一講座

第一講 Jazz総論

第二講 南北戦争とJAZZのはじまり

デス社会学

第一講 公安のしくみ

 第二講 始皇帝とアダルトチルドレン
 

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